法律知識

[買付証明と売渡承諾書] . . . 買付証明書と売渡承諾書を取り交わしただけで売買契約が成立するか?

Xは、自宅及び作業所の敷地としていた本件土地を、当初、より有効に活用するためにビルの建築を計画していたが、その計画を変更し新規事業の資金調達のために売却する方針を固めた。
昭和60年暮以降、多数の不動産会社が本件土地の買付や売却の仲介を希望してX方に出入りしていたが、その中のA社の紹介のもとに、昭和61年2月以降、本件土地の売却先の候補者の一つとしてY社と売買交渉を開始した。
昭和61年2月10日頃、XとYは、具体的売買条件の交渉を開始し、同月24日頃には、次のような点が合意に達した。
(1)売却代金額は、金16億21万円(坪当たり金1,700万円)とする。
(2)実側面積による売買とし、引き渡しは現状私とする。
(3)Xが新規事業資金に充てる必要性を考慮し、代金の早期一括払いを希望していることから、代金の支払時期は、次のようにする。 a.売買契約締結後、内金12億8千万円を支払う。 b.本件土地などの所有権は、契約締結時にYに移転する。
(4)本件土地などの引き渡しは、契約締結時から15月以内に行う(Xが自宅及び作業所として利用している場合を考慮)。この引き渡しを担保するため、Yは、代金の内、金3億2千21万円(残金全部)を売買契約締結時にX名義で銀行に預託し、Yがこれに質権を設定する。そして、本件土地などの引き渡しと同時に質権設定を解除する。
(5)違約金は、金3億2000万円とする。
(6)その他の具体的細部事項については別途協議して定める。 そこで合意に達した点を明らかにするために、同月26日付でYからXに対し買付証明書を交付し、翌27日付でXからYに対し売渡承諾書が交付された。
Yが作成し交付した買付証明書は、Yの社内稟議を経た後担当役員による決済を受けた上で発行されたものであり、その記載内容は、前記合意の通りに従い、代金総額、取引携帯、支払方法、所有権移転時期、引渡時期、質権決定、違約金などに関する条項があり、その他の条項として、「契約内容については別途協議して定める」 との記載があった。
更に、Yがこれらの条件で本件土地などを買い受けた旨が記されていた。
一方、Xが作成し交付した売渡承諾書には、買付証明書記載の条件で本件土地などを売り渡す事を承諾する旨が記載されていた。 その後、XY間で買付証明書や売渡承諾書にいう売買契約締結時を昭和61年3月10日とし同日に正式な売買契約書を取り交わす事が合意され、XYの担当者間で細かな売買条件の交渉が続けられた。
Yの担当者は、3月3日頃その交渉をもとに、売買契約書の素案を作成しXに示し、Xから若干の修正要求がされ、Yの担当者が手直しをして売買契約書案を完成した。 そして、Yの担当者から売買契約書案をXに示すと共にYの社内稟議に回した。 ところが、当初の予定に反し、Yの金融機関との交渉が長引き、正式契約締結予定日の3月10日までに資金調達の見通しがたたず、Yは、その旨を8日にXに連絡した。
結局Y側は、Yの社内稟議を経た担当役員の決済を得ることができず、3月10日には売買契約書の作成に至らず、また、YからXへの内金の支払いもされなかった。
そこで、Xは、Yに対し、17日に至り、代金を22日までに支払うよう求め、同日までに支払がされないときは、契約を解除する旨の通知を送った。 しかし、Yは、それに応じなかったため、Xは25日、代理人を通じて違約金の請求をした。 Yは、Xに対し、売買代金額の増額と支払方法の変更を提案し、交渉の継続を希望したが、Xはそれを拒否した。そして、Xは、28日、本件土地などを第三者に売却し、同日、所有権移転手続きを行った。
その上で、XはYに対し、XY間の売買が成立し、Yが違約したとして違約金3億2000万円の請求訴訟を提起した。
判決要旨(東京地裁昭和63年2月29日判決)Xの請求を棄却。