[マンションの値引き販売] . . . 分譲販売で売れ残った部屋を値下げ販売することは違法となるか?
Xは、不動産業をしている会社であるが、平成2年6月5日、マンション分譲業者であるYから、Yが建築中の地上13階建て地下1階建てのマンションの5階の一室(以下、本件部屋という)を、代金9313万円(本体9180万円、消費税133万円)で購入する契約を締結し、平成3年5月15日、本件マンション竣工と同時に、本件部屋の引渡ならびに所有権移転登記を受けた。 Xは、不動産業者として本件部屋を購入しておき、本件マンションの他の部屋の売れ行き具合により、本件部屋を転売して利益を上げることを目的に、Yとの間で本件契約をしたのであった。すなわちXは、Yからあらかじめ配布を受けた本件マンションの価格表に基づき、他の部屋の価格と対比して本件部屋の資産評価をし、他の部屋の売り出し状況を見ながら本件部屋の転売の難易を推測し、売買契約を締結決意したものであった。
しかし、その後のバブル崩壊等により、Yは本件マンションの未販売の部屋について値引き販売をせざるを得ない状態となり、平成4年9月頃より、値引き販売を実施する方針をとるようになったようである。 そのため、Xは平成5年2月18日、本件部屋を購入価格より3200万円も下回る金5980万円でしか転売できなかった。 そのためXは、Yが次に記載する理由に基づき、本件マンションの値引き販売をしない債務を負担していたにもかかわらず、その債務に違反したために、本件部屋の資産価値が下がり、結局、金5980万円でしか処分できなかったのであるから、YはXに対し、購入価格との差額、金3200万円の損害賠償を支払うべきであるとして本訴を提起した。
Xが主張したYが値引き販売をしない債務の理由とは、以下の通りであった。
1)Yの担当者は、本件売買契約に当たり、Xに対し、口頭で、Yが後日、本件部屋と同種・同等の物件をXに対する売買価格以下に値下げして売買することは絶対にないと約束した。
2)Yの担当者は、Xの転売の意図を知った上で「一旦、契約が成立した本件部屋がキャンセルになった。このマンションは、大変好評で売り出しと同時に完売になったほどで、本件部屋も売買価格に2割程度の利益を上乗せしてもすぐに転売できる事に間違いない有利な物件だ。買っておいたらどうか。」などと勧誘したのであるから、XY間に本件契約に際し、少なくとも、本件マンションの他の部屋を価格表記載の価格を値引きして売り出すことをしない旨の黙示の合意が成立し、万一、Yが値引き販売をしたときは、Xに対し、同一の値引率の値引きを行い、相応の金員を支払うとの黙示の合意が成立した。
3)本件契約当時、マンション業界においては、新築マンションを一斉に売り出し、売出価格による販売ができない物件が出たり、キャンセルされた物件が出た場合、これらの物件を再販売する業者は、値引き販売しないのを原則とし、やむなく値引き販売する場合にも、値引き分について当初の価格で購入していた買主に損失を補償するのが習慣化していた。
4)分譲業者が、同一マンションのみ販売状況の物件について値引き販売をすれば、当初価格で購入した買主の物件の所有資産価値がそれだけ引き下げられて損害を被るから、Yら分譲業者は、みだりに、値引き販売をしない信義則上の義務を負担しており、万一、値引き販売をする場合にも、値引き分について、Xは当初価格による買主に対し損失を補償する信義則上の義務がある。
判決の要旨(東京地裁平成5年4月26日判決)Xの請求棄却(確定)。