[貸主の修繕義務] . . . 建物賃貸借における貸主の修繕義務と特約について
賃借人Xは、昭和42年1月に本件建物の全所有者Aから、2階部分を借り受け、同48年11月22日に、1階部分をも借り受けて居宅として使用してきた。
その後、貸主Aが死亡したため、昭和50年11月23日の契約更新時に、Aの相続人Bとの間で賃貸借契約を締結して使用してきたところ、昭和51年10月28日、貸主Bは、本件建物をYに売却した。
XとYは、昭和52年12月30日に本件建物について次の通りの賃貸借契約を締結した。
(1)契約期間-昭和52年12月1日から同54年11月末日までの2年間
(2)賃料-一ヶ月金5万3000円
(3)使用目的-居宅
(4)修繕義務-本件建物の部分的な小修繕は賃借人が費用を負担して自ら行う。
そして借主Xは、本件建物の使用を継続してきたが、その間、賃料は昭和59年7月分から1ヶ月金6万5000円、昭和63年4月分から1ヶ月金9万7000円に改定された。 しかし、前記賃料改定後の契約期間の満了以降、契約は法定更新されて今日に至っている。
ところで本件建物は、昭和41年12月に新築された木造セメント瓦葺き2階建て(1階39.62m2、2階34.66m2)で、1階が6畳和室、7畳洋室、台所、便所、2階4.5畳の和室3室と便所からなっている。筑後4年を経過し相応の老築化が進んでいるが、立て直しの時期が来ているとまでは評価できない状態のようである。
賃借人Xは、本件建物を使用していて次のような不具合が生じているため、貸主Yに対し修繕を求めた。
(1)本件建物の屋根はセメント瓦葺きだが、瓦のずれや破損のため2階南西の四畳半の和室に雨漏りが生じ、その為部屋の天井にシミが出たり、天井板が剥離し、割れが生じている。従って、セメントがわらのずれまたは割れの部分を補修せよ。
(2)1階北側の玄関及び台所の屋根は、さしかけ鉄板葺きとなっているが、腐食のためか、鉄板の接続部の緩みで空隙が大きくなったためか、その他の原因か、必ずしも特定できないが雨漏りが生じている。従って、さしかけ鉄板葺き屋根を全面新しい材料で葺き替えよ。
(3)本件建物の外壁最上部の白塗壁部分は、生子鉄板で覆われているが、全般的に錆が浮き出して老築化が進行している。特に、各戸袋部分を東側外壁の最下端部の腐食が大きく、2階便所の窓の周辺は腐食で穴が空いている。したがって、損傷している生子鉄板を全面的に張り替えよ。
(4)また、外壁生子鉄板を張り替えよ。
(5)本件建物の南側外壁妻壁の最上部の白塗壁部分がひび割れしているので、充墳材で漏水帽子をせよ。
(6)雨樋も軒樋、立樋と共に損傷か破損が生じているので補修せよ。
(7)1階東側洋間の床部分が床下地部材の異常により、上下に弾むように揺れる状態になっているので、束基礎、大引き、根太等の構造部材の修理と床仕上げ材の全面的な張り替えをせよ。
(8)1階洋間と和室6畳との間仕切り部分の壁の上部が洋間側に倒れ、中央の柱は鴨居の位置で3.5センチ倒れているので、間仕切り壁を全面的に撤去し新設せよ。
(9)2階南西側和室4.5畳野天上板が剥離したり、割れているので取り除き補修せよ。
(10)2階の同室の壁がめくれているので、仕上げ材を取り除き、天井から鴨居までの全ての壁を化粧合板ではり、周囲の押縁を固定せよ。
(11)1階南側雨戸が欠損老築化しているので、取り替えよ。
(12)1階南側のはき出し引き違い戸が損耗しているので、アルミ製の建具と取り換えよ。
(13)玄関入り口の引き違い戸の損耗が進んでいるので、アルミ製の建具と取り換えよ。
この要求に対し貸主Yは、そのような修繕義務はなく、また本件建物は、修繕不能な状態にあるものとして拒否した。
判決の要旨 (東京地裁平成3年5月29日判決)Xの請求の一部容認、一部棄却。